あるとき、3才くらいの小さな子供がショッピングセンターを走っていました。少し離れたところからおかあさんが歩いていました。楽しそうな、幸せそうな、普通にみることのできる幸せな風景です。

パフ。。。

その子供は、あるおじいさんの足下にぶつかりました。とは言っても3才の子供です。子供は転びました。そして子供は泣きました。

その後、驚くことが起こります。

おじいさんが、体が痛いと言うんです。目が痛いと。もともと目が痛かったので、今回の衝撃が、目に悪影響を起こしたと。医者に行くと言い始めます。

おかあさんが少し驚いた表情をしましたが、すぐに謝罪しました。おかあさんが謝っている様子を見て子供も泣き止みました。ごめんなさいと言っていました。でもおじいさんは、痛いので病院に行くと言って聞きません。

おかあさんは、連絡先を交換して、病院に行ってくださいと伝えました。

自宅に帰ったあと、おかあさんは、保険に入っていたことを思い出します。毎月少しの掛け金の小さな保険です。保険の電話番号にかけると担当者の方が事情を聞いてくださいました。保険の対象であること、交渉は含まれていないこと、注意が必要であること、などです。ずっと、病院に行き続けられる可能性もあると聞きました。その悪い予言は的中することになります。

「病院に行きました。」そんな電話がおじいさんからおかあさんに入ったのは、一週間くらいたったあとでした。目の痛いことと、ぶつかったことは、まぁ、関係あるかもしれないようなことをお医者様から言われたような、言われないような、とにかく曖昧なことをおじいさんは、言いました。

「病院代を出して欲しい。」そう言って電話は切れました。

保険屋さんは、とにかく謝罪しましょう、と言い、いろいろな策をくれました。

おかあさんは、この後、数ヶ月、謝り続けることになります。もちろん病院代も。

ある日、保険屋さんが動き始めます。「病院の先生のお話を聞きに行きます。」その一言でおじいさんの様子が一変します。「会って話したい」と言ってきたのです。

おかあさんは、勇気を振り絞り、おじいさんとあいたいしました。でも謝罪に終始しました。そこでおじいさんは、

「目が痛いのは、最近先生も直接関係ないと言ってるんだけど、ちょうど眼鏡を作り替えようと思っていたんで、それだけ出してくれないか」

そんなことを言ってきました。おかあさんは、笑顔で、「保険屋さんからはそういうことはできないと聞いています」と応えました。

その後、おじいさんの身の上話を聞きましたが、おじいさんは、若い頃、とある教育機関で働いていた立派な方であることがわかりました。

おじいさんに最後の謝罪をして、おかあさんは家に帰りました。

二度と会うこともないおじいさん、本当は子供がぶつかったことと関係無い治療費を出させ続けたかもしれないおじいさん、彼女は納得いかないこともありました。

でも

保険屋さんのあたたかいサポートが、彼女を救ってくれたことのほうが、ずっと心に残りました。

その子供ももう中学生になりました。それでも、おかあさんは、ずっとその小さな保険に入っているそうです。

あまり幸福とは言えない状況の中にも、心の繋がりが幸せを感じさせることもあるというお話でした。